1歩進んで2歩下がる。

正義のミカタ―I’m a loser


正義のミカタ―I’m a loser
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書評/国内純文学


主人公・蓮見亮太は、「筋金入りのいじめられっ子」で、きっとこの先の人生を生きていても、自分には決して良いことなんてあるはずがない・・・そんな諦めを胸に抱いて生きてきた。
とても進学校とは言えないような、偏差値の低い高校からどうにか大学に進学するにあたって、高校までの自分を知る者のいなさそうな飛鳥大学・通称スカ大を選ぶ。さあ、今までの自分を脱ぎ捨てて、夢のまた夢だと諦めかけていた大学生活を、青春を謳歌するぞ!と意気込んだ矢先。彼の目の前を真っ暗にするには十分すぎるような、悪夢の再会が待ち受けていた。

高校時代、さんざん亮太をいじめ抜いてきた畠田。なぜ、こいつがここにいるのか?そんな疑問への答えも満足に得られないまま、華やかなはずのキャンパスに潜む死角のような場所でボコボコにされる亮太。

その現場に突然現れたトモイチは、恐ろしいほどの俊敏さで畠田を倒してしまう。トモイチを信じていいのか?でも、「友達」という言葉が持つ、永らく遠ざかっていた甘美な響きに誘われて、亮太はトモイチのあとをついていく。

トモイチに連れられて行った先は、「正義の味方研究部」。亮太はわけもわからぬままに、どうにもアクの強そうでありながら掴みどころのない先輩たちと、実はインターハイのボクシング3連覇という同級生・トモイチのいる正義の味方研究部に入ってしまう。


ずっといじめられ続けてきたことで、自分のいろいろなことを諦め、一歩を踏み出すことについて考えることすらなかった亮太が、正義の味方研究部の面々とともに行動することで、成長を遂げていく。まさか自分に転がり込むとは夢にも思っていなかったような恋の気配を感じたりもする。

正義の味方研究部の活動の中でトモイチと一緒に潜入することになる、ありふれた軟派サークルで、亮太はサークルの雰囲気とは明らかに異質な空気を発する間という先輩に出会う。自分の存在を主張せず、周囲の空気に巧妙に紛れ込む間の存在感に、自分と同じ何かを感じる亮太。そして、亮太と間の関係は、思いもかけない方向に・・・・。

ネタバレしないようにストーリーの大枠を紹介するとこんな感じだろうか。

小説を読むことの醍醐味は、主人公の成長や変化の様子を楽しむことと、主人公に感情移入して物語の世界にどっぷり身を浸すことにあると僕は思う。その意味において、この作品は小説の愉しみを濃縮したような青春小説だ。
主人公・蓮見亮太はいじめられっ子であったがゆえに特に増幅されてはいるが、高校から大学に進学するような、環境がガラリと変わる時に抱いた不安感や、それと表裏一体の甘酸っぱい期待感は、きっと誰もが抱いたことのあるはずだ。

ひょんなことから亮太が身をおくことになる正義の味方研究部が、本当に追い求めていたものは何なのか?正義とは何か?という疑問が、物語のクライマックスで亮太が自問し、ストーリーに身を委ねる存在である読者である僕たちに問いかけられる。


「筋金入りのいじめられっ子」である亮太であるがゆえに、自分がいい思いなんてするはずがない、という諦め根性が染み付いてしまっているがために、最後には正義の味方研究部が標榜する「正義」(カッコつきの、だ)の本質を見抜き、それまでの亮太には存在を意識することすらなかったような選択肢を自ら選び取っていく。


読んで楽しく、爽快でありながら、読むものの心に突き刺さる問いかけがなされる。ここまでしっかりとした読後感を持った小説に出会ったのは久しぶりだった。

評価(★5つで満点):★★★★


(蛇足)
主人公の家族、特に父さんの描かれ方と、亮太が父に対して抱く感情の描写が、じつに良かった。
きっと職場で馬鹿にされ、冷遇されながらも家族を想い、ちっぽけなことで喜び、家族には強がろうとする父さんの姿にじーんと来る人も少なくないだろう。

前に読んで、いじめられっ子を主題にした作品で印象的だったのは、荻原浩「コールドゲーム」。

本作「正義のミカタ―I’m a loser」とはまったく違うストーリーのミステリーだけど、読み比べてみるのも楽しい。

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正義のミカタI'm a loser 本多孝好

装丁は松昭教。書き下ろし。 主人公で語り手の蓮見亮太は飛鳥大学に入学。高校時代のいじめっ子も入学してて再会。窮地を救った同級生、桐生友一(トモイチ)に連れられ“正義の味方研究部”に入部。好転する大学生活。ある日

B109 『正義のミカタ 〜I’maloser〜』

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