1歩進んで2歩下がる。

「中国人ご一行様からクレームです!」


中国人ご一行様からクレームです!
Amazonで購入
書評/ビジネス



よく中国人観光客の団体さんを見かける機会が多くなったばかりでなく、仕事上、中国の方と接する機会が増えてきたので関心を持って読んでみました。

外資系企業勤務のOLさん、中堅サラリ−マン、子育て中のママさん、初めての海外旅行で日本に来た地方出身の女性、仕事で来日したビジネスマン、視察で来日した役人と、ツアーガイドさんやツアー会社の社員さんと、色々な方々の支店を通じて中国人観光客の方々が日本で経験したことについてのコメントを紹介し、中国の実情を挙げて中国人観光客の反応を紹介し、「傾向と対策」として適切な対応方法についての簡潔なアドバイスが掲載されており、忙しい合間にも気楽に読むことができました。

全体的には、宿泊施設やレストラン、旅行会社などの観光関係のお仕事をされている方をメインのターゲットとした本ではありますが、街や観光地で中国人観光客の団体さんを見かけることの多い、一般の生活者にとっては、身近な国際交流のために色々と発見のある、興味深い本です。

すぐ近くの国で、文化的にも近いところが多いと思っていた日本と中国ですが、この本を読んでみて、両国の間には文化的な違いがこんなにもたくさんあるのか!と驚かされました。

日本社会にせっかく興味を持ってやって来る外国人観光客には、せっかくですから日本に良い印象を持って欲しい、というのが日本人としての率直な思いですが、「日本に来るんだから日本のことをもっと知った上で来て欲しい」という思いもその一方であります。

もしも自分が、文化も言葉も違う国に旅行に出かけたらどんな印象を持つかな、ということを考えながら読むと、国際交流とか国境を越えた相互理解というのは、決して政治家や大企業ばかりがやることではなく、日本の社会にいる私たちが、日常の生活の中で彼らにちょっと手を差し伸べてあげるだけで生まれるものなんだな、という印象を持ちました。

エンド・クレジットに最適な夏


エンド・クレジットに最適な夏
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/ミステリ・サスペンス


東京創元社のミステリ・フロンティアシリーズの第33回配本作品。ちなみに、第1回配本は映画化された伊坂幸太郎「アヒルと鴨のコインロッカー」。

冒頭、解体工事のバイト先でもらってきたドッグフードを食べ、「塩胡椒をたっぷり振ったら何とか食べられそうだな」とか「これでかなり食費が浮くな」と話すシーンからして、主人公・晴也の貧乏学生っぷりが出ていて、いい感じに引き込まれていってしまった。


晴也は、報酬つきの人助けを引き受けることになる。ストーカーに悩む女子学生を助けるのが最初の目的だったのだけど、トラブルがトラブルを呼び、危ない目に遭いながらも問題を解決していく。
スピード感ある展開に「おお、そうきたか!」とワクワクしながら読み進むことができた。


全体的に楽しく読めたのだけど、主人公の晴也が、次々に飛び込む問題をわりとスムーズに解決していってしまうので、ちょっと物足りない感じもしてしまう。せっかく主人公が貧乏学生なんだから、そのキャラクターを活かして、もっとしょうもないことに悩みながら迷走する姿を描いてくれたら、読んでいてもっと感情移入できるのになあ・・・と感じてしまった。

ということで、星3つ。
評価(★5つで満点):★★★

ハイドラ


ハイドラ
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/国内純文学


主人公の早希は決して売れているとはいえないファッションモデルで、売れっ子カメラマンの新崎と同棲している。
といっても、年齢の離れた二人の同棲生活はあまりハッピーなものではなく、暗い印象を与える。

仕向けられたような恋愛によって、今までの生活で感じたことのなかった感情に戸惑いつつも心を躍らせる早希の様子に、僕はまったく共感することができなかった。

まだ若い女の子の恋心を理解できない時点で、すっかり自分もおっさんか、となかなかに悲しい気持ちにはなるのだけれど、どうも「ちょっとなぁ」と感じてしまう部分が多かった。

毎晩、コンビニで大量の食品を買い込み、噛み砕いては吐き出すことを繰り返す早希の行動が、厳密に拒食症にあたるのかどうかはわからないけれど、この病的な行動に嫌悪感を感じてしまった。
「痩せていること=美しいこと」という呪縛に囚われて無理なダイエットをする女性の話を聞くたびに僕は悲しく暗い気持ちになる。
早希の場合は、痩せすぎてしまった自分の身体を不気味なものと感じており、それでも食を拒み続ける。噛み砕いては吐き出す場面が描かれるたびに、イヤな気持ちになってしまった。


そして、小説を読む楽しみである、登場人物への感情移入が難しかった。
上述のような理由で、主人公・早希の行動に嫌悪感を持ってしまったが、ただ独りよがりでありながら流されるがままに思えてしまう早希に、年代も性別も違うことを差し引いても共感とか感情移入をすることができなかった。
早希を取り巻く登場人物についても、魅力的な人物がいるわけでも、憎みたくなるほどのイヤな奴が出てくるわけでもなく、物語としての厚みを感じることができなかった。


考えてみれば、恋愛模様ってものは人それぞれに違って当たり前で、きっと誰もが、自分の恋愛はちょっと特別だと思っていたり、思いたがっていたりするんじゃないだろうか。それは年代も性別も、きっと関係なく。
だけど、誰かに恋愛を相談したり、恋愛をテーマにした映画とか小説とか歌詞に共感したりといったことができるのは、それぞれに体験は断絶していながらもどこかで通ずる部分を見つけているのではないだろうか。

僕のこの仮定が正しかったとすればだけど、早希の恋の様子も、独りよがりな自問自答も、僕という読み手が共感できるような箇所がなかったんだろうなあ、と思う。
30代のおっさんは相手にしていない、と言われてしまえばそれまでなのだけど。
そう考えると、恋愛小説はターゲットをぎっちり絞り込まないと書けないものなんだなあ・・・作家って大変だなあ。


金原さんの作品を読むのは初めてで、若くして芥川賞を取った作家ということで期待していただけにとても残念ではあったが、星1つ。

評価(★5つで満点):

正義のミカタ―I’m a loser


正義のミカタ―I’m a loser
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/国内純文学


主人公・蓮見亮太は、「筋金入りのいじめられっ子」で、きっとこの先の人生を生きていても、自分には決して良いことなんてあるはずがない・・・そんな諦めを胸に抱いて生きてきた。
とても進学校とは言えないような、偏差値の低い高校からどうにか大学に進学するにあたって、高校までの自分を知る者のいなさそうな飛鳥大学・通称スカ大を選ぶ。さあ、今までの自分を脱ぎ捨てて、夢のまた夢だと諦めかけていた大学生活を、青春を謳歌するぞ!と意気込んだ矢先。彼の目の前を真っ暗にするには十分すぎるような、悪夢の再会が待ち受けていた。

高校時代、さんざん亮太をいじめ抜いてきた畠田。なぜ、こいつがここにいるのか?そんな疑問への答えも満足に得られないまま、華やかなはずのキャンパスに潜む死角のような場所でボコボコにされる亮太。

その現場に突然現れたトモイチは、恐ろしいほどの俊敏さで畠田を倒してしまう。トモイチを信じていいのか?でも、「友達」という言葉が持つ、永らく遠ざかっていた甘美な響きに誘われて、亮太はトモイチのあとをついていく。

トモイチに連れられて行った先は、「正義の味方研究部」。亮太はわけもわからぬままに、どうにもアクの強そうでありながら掴みどころのない先輩たちと、実はインターハイのボクシング3連覇という同級生・トモイチのいる正義の味方研究部に入ってしまう。


ずっといじめられ続けてきたことで、自分のいろいろなことを諦め、一歩を踏み出すことについて考えることすらなかった亮太が、正義の味方研究部の面々とともに行動することで、成長を遂げていく。まさか自分に転がり込むとは夢にも思っていなかったような恋の気配を感じたりもする。

正義の味方研究部の活動の中でトモイチと一緒に潜入することになる、ありふれた軟派サークルで、亮太はサークルの雰囲気とは明らかに異質な空気を発する間という先輩に出会う。自分の存在を主張せず、周囲の空気に巧妙に紛れ込む間の存在感に、自分と同じ何かを感じる亮太。そして、亮太と間の関係は、思いもかけない方向に・・・・。

ネタバレしないようにストーリーの大枠を紹介するとこんな感じだろうか。

小説を読むことの醍醐味は、主人公の成長や変化の様子を楽しむことと、主人公に感情移入して物語の世界にどっぷり身を浸すことにあると僕は思う。その意味において、この作品は小説の愉しみを濃縮したような青春小説だ。
主人公・蓮見亮太はいじめられっ子であったがゆえに特に増幅されてはいるが、高校から大学に進学するような、環境がガラリと変わる時に抱いた不安感や、それと表裏一体の甘酸っぱい期待感は、きっと誰もが抱いたことのあるはずだ。

ひょんなことから亮太が身をおくことになる正義の味方研究部が、本当に追い求めていたものは何なのか?正義とは何か?という疑問が、物語のクライマックスで亮太が自問し、ストーリーに身を委ねる存在である読者である僕たちに問いかけられる。


「筋金入りのいじめられっ子」である亮太であるがゆえに、自分がいい思いなんてするはずがない、という諦め根性が染み付いてしまっているがために、最後には正義の味方研究部が標榜する「正義」(カッコつきの、だ)の本質を見抜き、それまでの亮太には存在を意識することすらなかったような選択肢を自ら選び取っていく。


読んで楽しく、爽快でありながら、読むものの心に突き刺さる問いかけがなされる。ここまでしっかりとした読後感を持った小説に出会ったのは久しぶりだった。

評価(★5つで満点):★★★★


(蛇足)
主人公の家族、特に父さんの描かれ方と、亮太が父に対して抱く感情の描写が、じつに良かった。
きっと職場で馬鹿にされ、冷遇されながらも家族を想い、ちっぽけなことで喜び、家族には強がろうとする父さんの姿にじーんと来る人も少なくないだろう。

前に読んで、いじめられっ子を主題にした作品で印象的だったのは、荻原浩「コールドゲーム」。

本作「正義のミカタ―I’m a loser」とはまったく違うストーリーのミステリーだけど、読み比べてみるのも楽しい。

脳と仮想


脳と仮想
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/サイエンス



気鋭の脳科学者・茂木健一郎氏が放つ、脳と仮想の関係についての論考。

たかだか1リットルほどの身体器官にすぎない「脳」に宿る「心」とは何か?という問いが、幅広い分野の科学論や文学作品を引きながら展開されていく。脳と心、という複数の分野が入り組んだこの問題に、医学や生理学からというよりは、哲学に近い立場でアプローチしていく。

著者がふと耳にした、5歳くらいの女の子が放った「ねぇ、サンタさんって、いると思う?」という問いかけが、本書を貫く「仮想」の本質を追究する出発点となっている。

サンタクロース、という言葉から私たちがイメージする、赤と白の衣装を身につけ、白ヒゲの太った老人というのは、まさしく仮想であり、大人なら誰もサンタクロースが現実に存在するとは信じていない。


「現実」に依らない「仮想」は、科学的でない、と「科学者」たちは言う。それならば、科学が依って立つ「現実」とは何か。今、私たちの目の前にあるコップだって、目が捉えた情報を脳が処理し、手が触れた感触を脳が認識することによって「存在する」ことにしているだけではないのか。それならば、私たちが信じる「現実」と「仮想」の境界はどこにあるのか?
こういった、エキサイティングでありながら、読者も一緒にじっくりと考えることのできるような論が展開されていく。


そして、著者の茂木氏といえば「クオリア」というキーワードで知られるが、このクオリアについての論も興味深い。
クオリアとは、数値で表現することのできない質感のようなもの。「赤」という色は、光の波長によって表現されるが、そうして数値化される範囲から外れた、「赤」の質感を私たちは日々、感じ取っている。
そして、その「赤」にしても、私が感じる「赤」と他人が感じる「赤」とが同じものである保障はどこにもなく、それぞれの心の中にそれぞれの「赤」が存在する、ということになる。

自分の経験で考えてみると、プロ野球の試合を観戦するには、球場に足を運ばなくても、テレビ中継で十分な情報を得ることができる。むしろ、テレビのほうが選手の表情や詳細なデータを見ることができるし、経験豊富な解説者による説明を聞くことができる。しかし、なぜ時間とお金をかけて球場に足を運ぶのか。
それはおそらく、多くの観衆たちと一緒にひとつのボールの行方を追い、共に固唾を呑んで試合展開を見守り、応援するチームがチャンスをものにしたときに一緒に沸きあがる、そういった空気の中にあって感じる「雰囲気」は、数値や論理的表現であらわすことのできないものだと思う。


きっと著者が本書を通じてもっとも主張したくて、もっとも印象的だった箇所を要約してみる。
「他者の心」というものを本当に理解することなど不可能である、と誰もがわかっているのにもかかわらず、「わかり合う」「心が通じる」という経験を誰もが求めている。自分と他者、という絶対的な断絶に満ちたこの世界において、私たちが真に求めているのは、本当の他者理解などではなく、自分と他者の尊厳なのではないか。


本書は400円あまりで買える、240ページほどの文庫本である。しかし、じっくりと読み、読みながら考え、自分の身に置き換えて再び考え・・・としながらたっぷり味わうことのできる、中身の濃い良書だった。読みながら、自分の心に栄養が与えられているような、仮想に浸ることができた。

哲学に関する言葉も多く用いられているため、決してすらすら読み進むというわけにはいかないが、著者の言いたいことが多様な例を引きながら強調されているため、理解に苦しむといったことはない。それに、1つ1つの章のページ数が比較的少ないので、一気に読みきる時間がなくても苦にならない。


自分の心の中と外界との関係について、味わい深く考えるきっかけとなるこの1冊は、「科学」とか「現実」といった、確かな存在だと信じていたものについて、自分の内なる心を起点にして考え直す、貴重なきっかけとなる良書だった。満点。

評価(★5つで満点):★★★★★


■茂木健一郎氏のブログ「クオリア日記」 http://kenmogi.cocolog-nifty.com/qualia/
 ※茂木さんが、「笑っていいとも!」に出ていたことをこのブログで知りました。そのときの話は4/19の記事で読めます。


(蛇足)
著者の茂木氏は、ソニー・コンピュータサイエンス研究所に所属している。ちなみに、ソニーは2003年に「QUALIA(クオリア)」というブランド名で、ビックリするほど高価格のブランドを世に送り出している。
たとえば、ポータブルMDプレイヤーが18万円、46型液晶テレビが105万円、CDプレイヤーが84万円、など。
ソニーの商品情報サイトを見ると、すべての商品は生産完了となっているけれど、商業的にはどうだったんだろう。ちょっと気になる。

学者のウソ


学者のウソ
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/社会・政治



最近、マスコミが生活者を躍らせるためにウソの情報を流した、として騒ぎになることが多い。もちろん、マスコミがウソ情報を流す行為は「悪いこと」なのだけれど、安易に乗っからない=自己防衛のために、メディアリテラシーを普通の生活者である僕たちこそが身に着ける必要が高まっているようにも思われる。

そもそも、マスコミで流される情報では話に信憑性を持たせるために、どこかの大学のセンセイがコメントをすることが多い。そうしてマスコミにしばしば登場し、その分野の権威としてコメントしたり、論争を展開する「学者」の言葉を鵜呑みにせず、議論の本質を見極めようと呼びかけている。
そもそも、「学者」が言っていることだから正しいのか?と、そう疑うことからはじめよう、というのが本書だ。


4章からなる本書の内容をざっと紹介すると、こんな感じだ。

第1章「学者のウソ」では、住基ネット、ゆとり教育、ダム論争といった記憶に新しい論争を例に挙げ、本質を見誤ったまま進む議論から生まれる「ウソ」を指摘している。

第2章「本来の学問」では、「科学」と「学問」の指すものについて検討し、それぞれの「学問」の特徴と傾向について、「ウソ」を生みやすい学問を列挙している。

第3章「学歴エリート社会の罠」では、社会に対する強い影響力を持ち、世論を操作して自分の既得権益を守ろうとするマスコミの「ウソ」を暴こうと試みる。そして、マスコミを利用するフェミニズムや、「倫理」という名の武器を振り回す学歴エリートたちの「ウソ」を突く。

第4章「ウソ見破る手立て」では、私たちを煙に巻こうとする「ウソ」を見破るための思考について考え、著者が提案する「言論保障制度」についての解説が続く。


読んでいて、著者が展開する論が粗雑であると感じた。フェミニズムや左翼的思想に対して批判を加える箇所が全体を通じて多いのだが、もっと丁寧に、冷静に論じてくれれば興味深い内容になりそうなものを、激昂しているのかと思われるほどの勢いで話を進められると、「おや?」と思ってしまう部分も少なくなかった。

それと、書名で「学者のウソ」としておきながら、本書の内容としては学者だけでない社会における権力(パワー)による「ウソ」についても頁を多く割いており、新書というボリュームの制約もあったのだろうけれど、どうしても論点がぼやけ、まとまりのない印象を受けてしまう。

個々のトピックとしては興味深いものが多いだけに、粗雑さとまとまりのなさで随分と損をしてしまっているなぁ・・・と感じる。僕の理解力が足りないせいもあるのだろうけれど、読んだ後に新しい知見を得た!と興奮を味わうこともなく、ちょっと疲れてしまった。

今後、もっと論点が絞られた、まとまりのある著書に期待して辛目の星2つ。


評価(★5つで満点):★★

ジャニヲタ 女のケモノ道

僕は「ヲタ」=「オタク」な人って、どちらかというと苦手、いや、キライだ。

その理由って、こんなところだろうか。
 ・会話が相手とのキャッチボールにならず、一方的なテンションの高さでまくし立てるように話されるのが不愉快。
 ・話し相手を見下したような態度での会話にカチンとくる。
 ・常に自分が上位に立っていないと気が済まないのか、よくわからないポイントで張り合おうとする。

ざっくりまとめると、マトモなコミュニケーションが成立しないので、キライだ。


しかしまあ、芸能界に多大なる影響力と存在感を持つジャニーズ事務所、その事務所に所属するジャニーズタレントに夢中な女性が書いた本を読めば、「ヲタ」な心理も少しはわかるようになるかな?という気持ちで読み始めた。


ジャニヲタ 女のケモノ道
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/エンタメ・タレント


著者の松本美香さんは、女ピン芸人さんだ。失礼な話だが、あまりお笑いに詳しくないこともあって、この本を読むまで、松本美香という芸人さんを知らなかった。


かなりくだけた口語体でつづられる文体は、お笑いライブでピン芸人さんのトークを聞いているイメージで読み進めることができる。

そして、松本さんがヨゴレ芸人(自称)であるがゆえに繰り出すことができるのであろう、高めのテンションで自虐的に曝け出す自分の「ジャニヲタ」っぷりは、読んでいて笑いが止まらない。

僕が「ヲタ」に対して抱いていた、暗く湿ったイメージとは正反対の、ライトに笑えるエッセイだった。


恋愛の対象としてではなく、「バーチャルおかん」な視点でタレントを見つめてしまう心理や、コンサートに注ぎ込む情熱とお金の話、本人不在で開催されるタレントのお誕生日会の話(この話が一番面白かった!)など、松本さんのライトな語り口だから笑って読めるんだよなと思える。(たぶん、別な人にアツく語られたら・・・聞いているふり・・・かなぁ・・・。


笑える文章の間に、特定のタレントへの愛を超えて、その商法を含めて(?)事務所全体を愛してしまっているという、松本さんのジャニーズへの愛情がたっぷり伝わってくる。松本さんが持ちネタにしているという「自虐的ジャニヲタもの」を一度、見てみたくなった。


評価(★5つで満点):★★★★


■松本美香さんのブログ「おとこ日記」 http://d.hatena.ne.jp/motsuma/

 ※「ジャニヲタ 女のケモノ道」発売にあたって、ボツ原稿がこのエントリで公開されているので、興味がある方、立ち読み感覚でどうぞ。

ワインの個性


ワインの個性
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/グルメ・食生活

ワインは、どこか華やかな存在で、飲むとなんだか豊かな気持ちになれるという点で、他のお酒とはちょっと毛色の違う存在だと思う。

スーパーのお酒売り場や酒屋さんに行くと、迷ってしまうほど多くのワインが並んでおり、「これだ!」というワインを見つけるのは困難を極める。かねがね、ワイン好きな方々がどうやって自分好みのワインを見つけているのか、訊いてみたいところだ。

僕の場合は、「1本2000円以下の赤ワインで、重めのもの」という大雑把な選択基準しかなく、大した知識があるわけでもないので、毎回、店頭のPOPにあるコメントを信じてみたり、ラベルのデザインだけで決めたりしている。

そんな選び方をしているので、時々「これはウマイ!」と思うようなワインにめぐり合うことはあっても、その確率はあまり高くない。プロ野球にたとえると、コンスタントに「当たり」に巡り合うアベレージヒッターではなく、当たれば大きいが三振の多いイマイチ頼りにならない助っ人外国人選手のみたいなものだ。

そんな僕のワイン選びがもっと合理的で、かつ楽しいものになれば・・・との思いで本書「ワインの個性」を手にした。


著者の堀賢一氏は、ワインに関して雑誌連載を持ち、著書もあるワインの専門家だ。本書を読むとわかることが、ワインの生産現場にも何度も立ち、生産者やワイン批評家との交流も多い。

ワインの味や香り、色合いといった「個性」は、ブドウの品種や醸造方法のみならず、ブドウが生産される土地の気候や地質、さらには畑のつくりや斜面の向き、熟成に使用する樽の材質などなど、多くの要因によって決定される。

著者はそれらの要因について、専門家ならではの科学的・専門的な解説を加えており、実に説得力がある。ある程度の科学的な知識がないと、その解説部分を読んでいて置いていかれているような気分になってしまう(じっさい、僕もそうだった)。

しかし、著者が本書を通じて言いたいことは、科学的・専門的な知識を持ち合わせていなくても感じることができる。

本書を通じて著者は、消費者にウケがいいものを優先して作る商業主義と、わかりやすい判断基準を求める消費者たちによって作られた市場(特に日本において顕著な)によって均一化され、「ワインの個性」が奪われてゆく傾向に、警鐘を鳴らす。

マーケティング的に成功しないと市場から消えていくしかないというのは、現代社会においてはすべてのビジネスに共通の法則である。しかし、著者が主張しているのは、極端に前衛化して商業主義に背を向けろということではない。生産者と販売者は誠実なビジネスをしなくてはならないし、消費者は自分の感性でワインを選ぶための知識を身につけるべきだ、ということであるように思えた。

ある時期に売れたワインの傾向に、すべてのワインが右へならえで似通ってしまっては、古代から続く、多様な個性がひしめきあうワインの歴史が途絶えてしまうのではないか、と堀氏は憂慮しているのだ。


実に誠実に、科学的に書かれた本だと思う。一緒にワインを飲む人に知識をひけらかすためのお手軽なウンチク本だとは考えないほうがよい。
ワインについて、突っ込んだ知識を身につけたい!という方にはぜひ一読していただきたい。飲食店でワインを提供する人がこの本に書かれたようなことを理解していたら、安心してワインが楽しめそうな気がする。


コラムの合間に、コラムで紹介された生産者や産地に関係の深いワインを図版入りで取り上げているのが興味深い。その価格帯は5000円前後から、超高級ワインまで。僕にはちょっと高いなぁ・・・でも、飲んでみたいなぁ・・・。


評価(★5つで満点):★★★★

花宵道中


花宵道中
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/国内純文学


新潮社が主催する、「女による女のための」と銘打たれた文学賞、R−18文学賞の第5回において大賞と読者賞を同時受賞した作品。

作者の宮木あや子(みやぎあやこ)さんは1976年生まれで、この作品の受賞でデビューした新人。僕と同年代の女性が描くエロティックな小説がどんな作品なのか、大いに興味があった。
それに、女性によるエロティックな作品ということだけど、男性の僕が読んだらどんな感じだろう・・・という興味もあって読んでみた。


R−18文学賞という賞の名前からお察しのつくとおり、官能的な描写が数多く出てくるけれど、作品から感じたのは「せつなさ」だった。
時代小説はほとんど読んだことがなく、当時の文化や風俗について詳しくない僕でも、楽しく読み進むことができた。その辺りの知識がある方なら、きっともっと楽しく読むことができるのではないかと思う。

・・・・・・・結論としては・・・・・・・めちゃくちゃ面白かった!

江戸の吉原に生きた遊女たちを描いた物語5本が、お互いに重なり合い、それぞれ視点を変えて描かれることでそれぞれの人物が持つドラマがより深くなり、広がりを見せていく。

自分ではどうしようもない数多くのことに翻弄されながらも、作品に出てくる彼女たちは懸命に生きている。理不尽だと感じても、つらいと思っても、心に愛しい人を想いながら精一杯生きている。しかし、決して能天気にポジティブなわけではなく、実際は諦めながらも胸に秘めた思いにすがって生きている。命がけで恋をしている。だからこそ、読んでいてせつなくなる。

そして、遊郭という閉ざされた世界に生きる遊女たちが想いを寄せる男たちが、どうにもこうにもカッコイイ。収録された物語の中には、そんな男たちの視点で描かれたものもあるのだけれど、男の視線によるストーリーがあるからこそ、本書の世界により深みがあるのだろうな、と感じた。

ぜひ、多くの女性たちに読んでいただき、読んだ女性たちはまわりの男性たちにも読ませてやってほしい。読ませる相手は選ぶ必要があると思うけど。

著者・宮木あや子さんの今後の作品にも、そしてつい先日、第6回の大賞受賞作品が決まった「女による女のためのR−18文学賞」からこれからどんな作品が輩出されるか、実に楽しみだ。

評価(★5つで満点):★★★★★

■新潮社 女による女のためのR−18文学賞 公式サイト (宮木さんのインタビュー記事もあり)
http://www.shinchosha.co.jp/r18/

■宮木あや子さんブログ http://amiya.fruitblog.net/ 
(この作品「花宵道中」が漫画化されるそうだ。)

ビールでいただきます!


ビールでいただきます!
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/グルメ・食生活


ビール大好きな僕としては、何をおいてもこの本を読まなくてはならない!と燃える気持ちで本書を手に取った。

夕食を食べながらビール、天気のよい休日は昼からビール、週末に友人とバカ話をしながらビール、球場で野球観戦しながらビール、テレビで野球観戦しながらビール、岩盤浴に入った後のビール、ブログを更新しながらビール。ビールは、生活のいたるところにシュワーッと染み込んでくる。そして、飲んだビールは五臓六腑に染み渡る。

きわめて個人的なことだが、飲み屋でアルバイトしていた学生時代に縁あって、キリンビールが飲食店向けに開催する「ドラフトマスター講座」を受講し、晴れて「ドラフトマスター」の称号をいただいたり、創業100周年を迎えるにあたっての企画「日本のビールのさきがけ」に参加し、日本で初めて製造されたビールを工場で試飲させていただいたりと、どうも僕はキリンビールとの相性?が良いようだ。

そして本書、「ビールでいただきます!」は、キリンビールのWebサイト「キリンビール大学」から出たものなのだ。


著者の大田垣さんといえば、新聞や雑誌などでよくイラストエッセイが掲載されており、名前は知らなくともきっと誰もがその作品を目にしたことのある画文家だ(実際、僕も著者の名前ではピンとこなかったが、イラストを見て「あぁ!この人か!」と思った)。

本書「ビールでいただきます!」は、キリンビールビール大学食学部の大田垣晴子教授(!)が現在もWebで開講している講義をまとめたもの。

「講義」と聞いても、学生時代を思い出して苦い顔をする必要はない。

本書は料理についての大田垣教授によるマンガエッセイ・・・じゃなかった講義が35本と、ビールについてのちょっとした知識をつけることのできるコラム「ごっくんパラダイス」が24本という内容。
前書きで大田垣さん自身が「ビール片手にのんびりとお楽しみください」と言っているように、ゆる〜い気持ちで読んでいるうちにビールを飲むのがより楽しくなる本に仕上がっている。

「必修講座」として取り上げられている料理のいくつかを挙げてみると、枝豆、焼き鳥、焼き肉、ギョーザ・・・と、この料理を食べるにあたってビール抜きというのは拷問に等しいのではないか!?と思えるほどにビールと相性の良い料理が並んでいる。

それと同時に、「ピリッとさっぱり! ナスの甘酢炒め」「スタミナチャージ! シンプル酢豚」など、ビールに良く合いそうな簡単にできる料理も紹介されている。
まあ、簡単レシピの中に「ビアカクテルをつくろう」と気軽に呼びかけながら紛れ込んでいる「ビール大学スペシャル」はヤバそうだ・・・。どうヤバそうかは読んでのお楽しみ、ということで。


本書のコラム「ごっくんパラダイス」でも書かれているが、ビール好きの方ならぜひ、ビール工場の見学に出向いてみてほしい。
小学生の頃の社会科見学の気分に浸ることができてワクワクするし、ビールがものすごいスピードで缶に詰められて、缶の底に賞味期限が印字されるシーンなど、興奮すること間違いなしだ。そして楽しい見学の後には、もっと楽しい試飲の時間も待っている。

また、工場によっては併設されたレストランでできたての生ビールや、工場でしか飲めない限定ビールと一緒に、大田垣教授が講義で紹介していたような、ビールに絶妙にマッチする料理を楽しむことができる。


最後になってしまったが、この本についてくる「しおり」がなんともいえずカワイイのだ。ちなみに僕は、この本以外の本を読むときにもこの「しおり」を使っている。


評価(★5つで満点):★★★★★

■キリンビール大学 http://www.kirin.co.jp/daigaku/

スマートモテリーマン講座 プレミアム


スマートモテリーマン講座 プレミアム
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/エンタメ・タレント


首都圏で配布されている男性向けフリーペーパー「R25」の連載50回分をまとめて単行本化している。

内容を知らないで本のタイトルだけを見ると、「モテる」ための技術が解説された指南書のように思えるかもしれない。

しかし、表紙のイラストでいきなり脱力。ヒゲ・アフロの男がヘルメットをかぶって自転車にまたがっている。自転車の前カゴにはバラの花。
これは、「受付ちゃんにモテる バラ満載の勝負自転車」だそうで、解説文がモテるための技術を指南するかのように、(一見)マジメに綴られている。

読むものを笑いと脱力にいざなうイラストと、マジメに書かれている(風の)文章とが組み合わさった50本、楽しく笑いながら読むことができた。

単に連載をまとめただけではなく、連載用に書かれてボツになってしまった手書きの原稿が掲載されており、これも楽しめる。原稿の内容に付けられたコメントや校正から、裏舞台でにおけるプロの仕事ぶりを垣間見ることができ、ちょっとした社会科見学気分を味わうこともできる。


楽しく読み終えてみて、余計なことも考えてみた。


ここ数年、特に若い女性向け雑誌や化粧品の広告で「これでモテる!」的なキャッチコピーが目に付いて、僕はそのたびに「みんな、そんなにモテたいのか?」とツッコミを入れていた。なんか、違うんじゃないか?と。

まあ、モテるというのは悪いことじゃないんだし、モテないよりはモテるに越したことはないというのはわかっている(僕だってモテたい)。
だけど、「モテ」を売りにする広告や雑誌の見出しを見ていると、みんながみんな、血眼になって「モテたい、モテたい、モテたい」とブツブツ呟いているような印象を受けてどうにも気持ちが悪いのだ。
それは、今までなら内に秘めていたような欲望をストレートに見せ付けられてしまうことの違和感だったのかもしれない。

「それは実践できないだろっ!!(笑)」とツッコミを入れたくなるようなモテ・テクニックを紹介する本書(と連載)は、ひょっとして、だけれど、ここ数年の日本に蔓延する「モテブーム」と言えるような現象をブッ飛んだイラストと、絶妙なズレ加減の文章で笑い飛ばしているんじゃないのか!?と考えてしまった。

モテたかったら安直にモテるためのマニュアルやツールに頼らずに、ここで紹介するくらいのことをやってみろ!というメッセージなのかも・・・と笑いながら考えてみた。


とかなんとか、余計なことは考えてみたものの、純粋に笑って楽しめる本だった。

評価(★5つで満点):★★★★

晩餐は「檻」のなかで


晩餐は「檻」のなかで
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/ミステリ・サスペンス


この物語の最大の特徴は「檻」の【内】と【外】、それぞれで展開する物語が並行して語られることにある。

まず、「檻」の内側の物語は・・・

未来の日本で「仇討ち」が制度化された。物語はその制度実施第一号の場で展開する。
「檻」と呼ばれる建物に集められた7人の男女。
彼らに与えられた役割は、「殺人者」「被害者」「共謀者」「傍観者」「邪魔者」「監視者」「探偵」。
自分以外の役割を知らされず、お互いに疑心暗鬼になりながらも事態は進行していく・・・という推理小説。


そして外側では、泣かず飛ばずで、なにかとダメダメで自分の子どもにも少し冷たくされているような作家・錫井イサミの情けない日常が描かれる。
周りから小馬鹿にされ、売れないどころか出版もされない作家が追い詰められて、それこそワラにもすがるような必死さと、自分は文学者だ!という歪み気味の自尊心が絡まりあって、事態は妙な方向へと転がっていく。
この錫井という作家はなんとなく、高校生の頃に読んだ筒井康隆の短編小説に出てきそうな雰囲気だなぁ・・・と思いながら読んでいた。


【外】の世界の主人公である売れない作家が小説を書いている。途中までの出来に満足している様子。彼について描かれるのは執筆活動ばかりではなく、子どもの世話をしたり、稼ぎのある妻に頭が上がらない様子。

そして、物語が【内】に切り替わる。登場人物たちによって展開される推理と、計画通りに実行される殺人。特殊な状況下で、限られた時間の中でトリックを見破らなくてはならない


テンポよく切り替わる二つの物語だが、僕はダメダメな作家・錫井が登場する【外】の物語を楽しんで読んでいた。
【内】のほうは、入り組んだトリックがあるとはいえ結末として犯人が明らかになり、7人の役割もはっきりするだろうな・・・と予測がつく。
しかし【外】では、引くクジ引くクジ必ず貧乏クジという感じの情けない作家が、本人の思惑に関係なしに転がっていく様子が描かれていて、「こいつはこの先どうなっちゃうんだ!?」とちょっと心配すらしながら読み進んでいた。


そして最終章。

この本の帯に「あなたは、驚天の結末を予想できるか!」とあるのはこういうことだったのか!!やられたっ!と感じていた。


人間のダメさや汚さが描かれた【外】の世界の登場人物は、自分の近くにいたらイヤだけど個性的というか、アクが強くて魅力的とは言えないまでも印象深い。

それに対して【内】の7人については、人物像が浮き上がってくるほどの存在に感じることができなかったように思える。・・・それも、【内】と【外】とが絡み合うこの小説の本質を知ったら納得・・・できちゃうのかもしれないけれど。


評価(★5つで満点):★★★★

ミステリーファンのためのニッポンの犯罪捜査


ミステリーファンのためのニッポンの犯罪捜査
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/ミステリ・サスペンス


ミステリー小説に不可欠な存在である警察による犯罪捜査について、まだ記憶に新しい事件を例に挙げ、警察の各組織がどんな役割を持ち、どう動いているかを紹介している。

雑誌「小説推理」の2005年1月号〜2006年11月号に連載された記事を単行本化しており、監修の北芝健氏が読者からの質問に回答するコーナーもあって、警察組織のことに詳しくない人にもわかりやすい説明がある。

目次から拾ってみると「現場保存」「初動捜査」「捜査本部」「刑事の職務と日常」「逮捕と検挙」「鑑識」「検視・解剖」と、ミステリー小説や映画・ドラマでよく目にする捜査についての章が並んでおり、読んでみると警察の内部事情について触れられていたりして「おお!そういうことだったのか!」と色々とびっくりさせられる。実際の事件が例に挙がっているので、情報にも生々しさが漂う。


帯に、人気作家の大沢在昌氏が「推理小説家必読の書」と推薦のコメントを寄せているが、推理小説を書こうという人なら、犯罪捜査についての知識を得る上で不可欠な本だろうと思う。

推理小説を書く人以上に多くいる、推理小説を読む人にとっても、推理ものの映画やドラマを観る人にとっても、この本で紹介されている犯罪捜査についての知識があることで、作品をよりいっそう、楽しめることは間違いないだろう。

本書を読むと、警察の各組織のことが描かれた小説が読みたくなった。そんな読書欲に駆られた僕のような人のために、せっかく雑誌「小説推理」の連載を単行本化したのだから、編集部オススメのブックガイドがついていたら最高なのになぁ・・・と思ってしまう。

本書の内容には文句なし、だけど欲を言わせてもらって、雑誌連載プラスアルファとしてブックガイドが欲しいなぁ、ということで星4つ。

評価(★5つで満点):★★★★

「感動」禁止! 「涙」を消費する人びと


「感動」禁止! 「涙」を消費する人びと
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/ルポルタージュ


スポーツイベントのたびに繰り返される「感動を、勇気をありがとう!」の声。映画や小説の売り文句として、ウンザリするほど目にする「感動」「涙」「泣ける」というワード。

この本、帯に『感動をありがとう』って気持ち悪い!!とあり、最近のニッポンを覆う妙な風潮に真正面から切ってかかる。

実を言うと、僕はオリンピックとか、サッカーのワールドカップとか、非常にどうでもいい。というかむしろ嫌悪している。テレビニュースを見ていて、その手のニュースに切り替わったら反射的にチャンネルを替えてしまう。

とことん鍛えぬいたアスリートが自己の限界に挑み続けて世界の舞台で戦う、ということ自体は素晴らしいことだと思う。しかし、その様子を報じるマスコミはいちいち「感動のドラマ」を無理やりにでも捩じ込んでくる。

勝敗のシビアな世界に生きるアスリートにとって、観客たちの「感動」とか「勇気」といった情緒なんてどうでもいいことなのに。まさか、戦時中をはるか60年以上離れたこの時代に「お国のために」「国威発揚のために」世界の舞台でスポーツをやるわけでもないのに、何を言っちゃっているんだろう、と思ってしまう。
小説を読むのは大好きだけど、帯に「感動」だの「涙」だのあると、僕は「おいおい、ちょっと勘弁してくれよ」とテンションが下がってしまう。

みんなで同じ方向を向いて「感動をありがとう!」と虚ろな目で涙を流す姿を勝手に想像して、「うわぁ、気持ち悪うっ!」と思ってしまう。この人たち、どっか病気なんじゃないのか?集団ヒステリーの中で洗脳されちゃっているんじゃないのか?と自分を棚にあげて心配してしまう。


本書は、現代のニッポンを覆う「感動」現象を、戦後の日本経済において大きなボリュームで担い続ける団塊世代の心理的・社会的背景、そして彼らと二人三脚で成長してきた消費社会・戦後日本の分析という視点で分析している。

「涙」が経済活動の対象となり、貨幣価値を持つものとして消費される存在になっていることに対する違和感が、著者が筆を執った動機であるとまえがきで語られている。


5章から成る本書の1〜4章は、団塊の世代の青春時代、戦後の消費社会の隆盛とバブルとその崩壊、フェミニズムと消費の関係、高度消費社会としての現在の日本を分析しており、なかなかに興味深く読み進むことができる。

ふむふむ、戦後社会をこうやって分析して、薄っぺらな「感動」が横行する現在のニッポンをどんな風に読み解いていくのだろう・・・と期待しながら読むことができる。

しかし残念なことに、(おそらくは)本書のメインである第5章との内容において、つながりが希薄に感じられてしまう。

最終章でナンシー関のコラムを引いているあたり、「おぉ!もっとそのあたりのことを書いてくれ!!」と引き込まれるのだが、あっさりと他の話題に移ってしまい、消化不良という印象を持ってしまう。もしも、ナンシー関が存命であったら、著者との対談を実現して欲しかったものだとつくづく惜しまれる。

戦後日本の消費社会、という大きな視点から最近の風潮を捉えようとしたために、論点がぼやけてしまって著者も一番語りたかったことを語りきれなかったのでないか、との印象を受けた。

主にマスメディアが垂れ流す、お仕着せの「感動」を分析するために、メディア分析の視点も取り入れた続編が出ることを期待してみたいと思う。

評価(★5つで満点):★★★

腐蝕生保


腐蝕生保
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/経済・金融


小説を読むことの楽しみの大きなひとつは、登場人物、特に主人公に自分を投影し、重ね合わせて感情移入しながら読み進めることにあるのではないだろうか。

そして、感情移入がしやすい登場人物とそうでない登場人物というのは、読む人によって大いに異なると思う。

その登場人物のタイプをざっくり2つに分けてみる。

ひとつは、どうにもダメなところばかり目に付くけれど、放っておけないというか、「がんばれ!」と応援しながら、登場人物が成長していく様子についつい引き込まれていってしまうタイプ。
もうひとつは、何をやってもカンペキで、格好いいタイプ。少年たちが憧れるヒーローのような存在なのかもしれない。

この「腐蝕生保」の主人公、吉原は後者のタイプに属すると思う。
国内ナンバーワン生保のエリートコースを驀進する男。仕事は文句なしにバリバリできるし、上司にだってガツンと言うことを言う。そして語学堪能で、周囲の人間を味方にすることにも長けていて、おまけに妻子ある身でありながら、女性にだってモテる。

巨大で伝統的、そしてナンバーワン企業であるがゆえに社員に浸透した傲慢ともいえるプライド。出世のために上の顔色ばかり伺って、保身とゴマすりのことしか頭にない周囲の人間たち。保身とゴマすりで出世した上層部が派閥の論理で支配する会社組織の中で奮闘する主人公。


こう書くと、胸がすくような爽快な物語のようだが、そういうわけではない。

熱いエリートを絵に描いたような主人公は、自分を重ね合わせるにはどうにも僕からは程遠すぎて、この小説の登場人物に感情移入して読み進めるということができなかった。

物語の中で、主人公・吉原が上司に喧嘩を売る場面が何度も出てくるのだが、その度に口にする科白が「それなら、私は辞めます」なのが違和感を覚えてしまった。エリートと言えどもサラリーマンが切ることのできるカードはそんなものなのか、という軽い失望もおぼえた。

そして、ラストでもストーリーにドラマチックな変化が出るわけでもないことも残念と感じる。

ワタミフードサービスの創業者、渡邉美樹氏をドキュメンタリータッチで描いた高杉作品「青年社長」を読んだ時に得た、爽快な読後感は得られない。企業社会の暗部をえぐる作品で定評がある高杉作品の中で異端と評される「青年社長」しか読んだことがなかっただけに、同じような読後感を期待していた僕が間違っていたのだと思うけれど。


もちろん、評価できるところもある。経済小説の大御所・高杉良氏の作品だけあって、生保業界の歴史、特に金融ビッグバンと言われた時期以降の業界の様子は詳しく書かれている。

そして、職場のスタッフを連れた宴会の会場として「和民」が何度か登場するのは、「青年社長」を愛読した読者へのサービスかな?と嬉しくなることもできる。

読者である僕が、年齢を重ねて成長し、主人公・吉原のように組織の中枢を担うような人間になったら、この作品の理解の仕方も変化しているのだろうな、と思う。

評価(★5つで満点):★★★

「書ける人」になるブログ文章教室


「書ける人」になるブログ文章教室
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/ビジネス


全体を通して読みやすい本で、一気に読みきってしまった。序盤では「表現する」ことについて気難しく考える必要はないんだよ、とやさしく背中を押してくれる。しかし一方で「表現する」ことを本気で突き詰めることの厳しさを示しつつ、「表現する」ことで感じられる喜びについても教えてくれる。そんな本だった。


著者の山川健一氏は、作家として30年間のキャリアを持つばかりではなく、ブログの書籍化でヒット作の多いアメーバブックスの取締役編集長。ブログの文章指南をする上ではこれ以上の適任者はいない、と言える人選だと思う。

アメーバブックスについてよく知らない方もいるかもしれないので、テレビドラマ化された作品で言うと、現在、小西真奈美主演で放送されている「きらきら研修医」も、自分と同い年の観月ありさがついにこんな役をやるようになったか!と衝撃を受けながら毎回観ていた「実録鬼嫁日記」も、アメーバブックスで書籍化されたブログである。


タイトルから、これを読めば文章が上達する!とか、ブログのアクセスアップ!といった効能を期待してしまう方も多いと思うが(実は僕も少し期待していた)、実際に読んでみると、文法とかなんとかといった小難しいことを述べるのではなく、アクセスアップのための小手先のテクニックを伝授しているのでもなく、「表現するということ」について書かれた本であることがわかる。

この本の構成を勝手にざっくりと3つに分類すると、以下のような感じになると思う。
 1.ブログに興味があるけど、ためらっている人を勇気付ける
 2.ブログを始める(続けていく)にあたっての注意点とちょっとしたテクニック
 3.ブログの書籍化や小説を書きたい人に向けたメッセージ
僕が印象に残ったのは、「1」「2」にあたる部分だった。


ブログ文化発祥の地、アメリカでは9・11事件を発端に、緊急連絡ツールからジャーナリズムへと成長しながらブログが普及し、大統領選挙にまで影響を及ぼす存在になった。しかし、日本のブログ文化はアメリカのそれとは違った方向で成長し、「日記」としてのブログが中心であることについて、「それでいいじゃないか。ただし、本音で書かれていれば」と表現することの喜びを紹介し、これからブログを始めようと思っていても踏み出せないでいるような人の背中を押してくれる。
日本文学における日記文学の輝ける存在を示されては、「ただの日記をわざわざネットに書くなんて」と躊躇する理由がなくなるというものだと共感した。


誰かを傷つけるような文章を書かないとか、単に後ろ向きなだけのグチを書かないということを、山川氏はマナーとかエチケットといった言葉を使わず、「読んでくれる人を思い浮かべて」「自分の立ち位置」を決めて「心を込めて文章を書く」べきだ、と主張している。まさにその通りだと思う。

山川氏は、あくまでも「本音で書かれていないと意味がない」と強調する。新聞のように「・・・とする向きもある」のような、無味乾燥な文章のブログなんて、誰も読みたいと思わない、と。これにはなるほど!と思わされると同時に、自分の書き散らしている文章を振り返って、読んだ誰かを傷つけないようにしながらも「今の本音」を書く、というバランス感覚は意外と難しいんじゃないかな、と思わされた。


そして「表現する」にあたって必要な覚悟についても書かれている。ここに詳しく書くとネタバレってやつになってしまうので書かないけれど、勉強になったと思うのは、文章での表現を写真での表現に例えて書かれた部分だ。

日記スタイルのブログの多くには、デジカメやケータイで撮影した写真がついている。そして、文章だけのブログより、アイキャッチャーとしての写真がついたブログのほうが、興味を惹かれ、読んでみたいと思うことは多い。そのように、ブログと不可分の存在と言ってもいい写真での表現について、著者が語る部分を参考にして撮影した写真は、きっと活き活きと輝いてブログの文章を飾る(あるいはそれ以上の)存在になることだろうと思う。


やや残念なのは、「ブログをはじめようと思っている人」向けの部分よりも「ブログを書き始めた人」向けにもっと突っ込んだ話を展開してくれた方が、著者のキャリアを有効に活かしつつ「表現」について語る部分のボリュームが増して魅力的だったのではないかな、と思うこと。
商業出版物としてそのあたりの判断は難しいところなのかもしれないけれど、続編が出るとしたら、自分のブログをもっと魅力的にしたい人をターゲットにした内容になることを勝手に期待して、星4つ。

評価(★5つで満点):★★★★

神社のルーツ


神社のルーツ
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/宗教・哲学

この本を読み始めてから、ドライブの楽しみがひとつ増えた。

カーナビのソフトを作っているメーカーの方針なのかは知らないが、使っているカーナビの画面には、地図を縮小した状態でも、かなりの確率で神社の名前が表示される。たとえば、昨日スキーに向かう途中で「貴船神社」の名前が国道沿いに表示されていた。そうすると、今までならあまり気にすることもなかったのだが、「おお!貴船系の神社は水神さまを祀っていて、水源を尊重する農民の祈りがきっと今も残っているのだな」などと、想像を膨らませることができるようになった。


八百万の神の国、日本。そのいたるところに分布する神社を、「都市」「山」「海」「武・文・人神」の4つの血統、25の系に分類して、歴史学や宗教学に詳しくない人でもわかりやすくまとめた好著。

日本人にとっての「神様」は生活に密着し、農村なら五穀豊穣や病害虫からの保護、漁村なら海上での安全、のように自分たちの営みを守る存在として尊ばれてきた。
しかし、海の血統に分類される神様を祀った名前をもつ神社が、内陸部にあることもよくある。これは、海が持つ生命のイメージから、安産の神様としても大切にされてきたことによる。

このように、神社を系統的に分類すると言っても、永い歴史の中で仏教との関係や政治的理由などにより、スッキリと割り切れるものではない。水の神様と山の神様が一体となっていたりして、混沌としているのだ。そのことを踏まえたうえで、作者は丁寧に神社を分類していく。


同じような名前の神社があちこちにあり、それらの名前にはきっと由来があるんだろうけどどういうことなんだろう・・・という素朴な疑問を持っていたが、この本を読んで、解決した。

まずなにより、日本中に張り巡らされた幾つもの「神様ネットワーク」の規模の大きさに驚かされた。巻頭で紹介されている稲荷系の神社は3万2000、名もない小社まで含めれば4万とも5万とも言われるそうだ。他にも八幡系や住吉系など、大規模なネットワークを持つ神社が数多く存在するのだから、つくづく日本は八百万(やおよろず)の神の国であることを実感する。

紹介される25の系には、それぞれ全国の代表的な神社が紹介されており、自分の住んでいる・住んでいた地域の神社が紹介されていると、熱心に読み入ってしまう。

また、神社の名前の由来や別名の紹介の中から、日本各地の地名には、今まで知らなかったけれど神社に関係した名前が数多くあることを知り、改めて日本人の生活と神様たちのつながりの深さを実感させられる。


旅行の時など、この本を持ち歩いて、その土地の神社が持つルーツを辿り、その土地で暮らしてきた人々の生活に思いを馳せるのもまた、楽しそうだ。


欲を言えば、それぞれの系ごとの神社分布図や、発展の系図、神社ネットワークの規模など、把握できている範囲でいいので、資料として図表を提示してくれるとさらに理解が深まったように思える。混沌とした神様ネットワークだけに、これは望みすぎなのかもしれないが、その期待をこめて星4つ。


評価(★5つで満点):★★★★

 | HOME | 



Calendar

07 | 2017-08 | 09
S M T W T F S
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

Now and Recent Books

楽天ブックス へのリンクです。

■今、読んでいる本
「脳が冴える15の習慣」:築山節


■最近読んだ5冊

「適当論」: 高田純次


「レバレッジ時間術」:本田直之


「ウェブ社会をどう生きるか」:西垣通


「エンド・クレジットに最適な夏」:福田栄一


「ハイドラ」:金原ひとみ

Monthly

Categories

Recent Entries

Recent Comments

Recent Trackbacks






ブログでブームはブロモーション



ブログで報酬稼ぐなら!buzzmo(バズモ)

DTIブログポータルへ
このブログを通報
Report Abuse
利用規約